作品名
いくさがたな
作者
22-726氏



「いくさがたな」
「………」

 それがある日の部室での俺と長門との会話だった。
 紛らわしいので一応言っておくと、謎の言葉を言ったのが長門で三点リーダで答えたのが俺だ。

 あー、もしもし長門さん。
 俺の記憶違いでなければ『長門にとって俺はどんな存在か』と尋ねたつもりだったんだが。
 長門は頷き、そしてもう一度告げてくる。

「いくさがたな」

 どうやら聞き間違いではないようだ。
 いくさ……がたな。俺の知る漢字を当てはめるなら『戦刀』ってあたりか?
 それにしても……戦刀とはまた大層な例えだ。
 俺からみれば長門の方こそ戦刀って感じなのだが。

「あなたがいるといないとでは、わたしのポテンシャルが変化する」
 どういうことだ。
「あなたはわたしにとって、魂のような存在」
 あぁ、なるほど。それで戦刀ね。
 日本刀は武士の魂と昔の人は言ったものだ。

「戦刀……か。聞いたこと無いが、良い言葉だな」
「当然。従来の日本語ではなく、わたしの言葉」
 長門の造語なのか。それはますます貴重な事だ。
 もう一度だけ言ってくれるか。折角だからお前の言葉で記憶できるようにさ。
 長門は二度ほど瞬きをすると小さく頷き、言葉を紡いだ。

「いくさがたな」


「へぇ、面白いね。『いくさがたな』って表現するなんて」
 あけて次の日の昼休み。
 相変わらず国木田と谷口と三人で昼を食べながら、俺は例の言葉について話題にしてみた。
 長門が俺に告げたという事実は伏せ、何かの本で読んだ事にしている。
「面白いか? 俺にはさっぱり意味がわからん。一歩違えば電波っぽいしな」
 谷口は相変わらずアホな受け答えしかしてこない。
 まぁ、確かに言葉だけじゃその真意まではわからないよな。

「ははっ、電波じゃないよ。この言葉は、とっても意味が深いんだ」
 何だか妙にベタホメだな、国木田。一体お前の何処にヒットしたんだ?
 背景を全く知らないはずなのに、何で意味が深いとかまでわかる?
「アレ? 良い言葉とかいってたくせに、キョンも気づいてなかった訳? 僕はてっきりキョンからのクイズだと思ってたのに」
 クイズだと? 一体どういうことだ。
「んーとね、自分で気づいた方が面白いと思うよ。確かアハ効果だっけ?」

 何だ何だ何だ? 国木田曰く「戦刀」には何か隠された意味があるって言うのか。
 俺と谷口は顔を見合わせ考える。
「全然わかんねぇ。飯の時間ぐらい頭休ませろ」
 しかし谷口がすぐに手を上げ降参すると、国木田はヒントだけといって教えてくれた。



「ヒントはね、逆再生だよ」


 そのヒントを聞いたとき、俺はなぜか朝倉の事を思い出していた。
 宇宙語なのか知らんが、長門も良く唱える謎の呪文を、朝倉が長門に対して唱えてきた姿を。












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