作品名

作者
21-709氏





今日は不思議探索の日。午前の探索は不調に終わり、あたしは、いつものように古泉くんと、
いつもの喫茶店でお昼を食べていた。ま、不思議探しが好調だったことなんてないんだけど。

「まったく、なかなか不思議なものって見つからないわね」

空になったカレー皿を前に、お冷を一気飲みする。

「まあまあ。そう簡単に見つからないから、不思議って言うんですよ」

相変わらず醒めた話し方ね。その軽薄そうな笑顔も何かイラつくわ。
そんなことを考えてたからか、あたしを見ていた古泉くんが妙な顔をする。

「口が三角になってますよ」

うっさい。

「早く食べちゃいなさい。今日は、夕方からおじいちゃんとこに顔を出さなきゃ
ならないんだから、あまり時間がないのよ。あんたも来るんでしょ?」
「ええ。祖父が一緒に来いと」

まったく、その話し方なんとかならないのかしら。同い年なんだから、もっと砕けた調子で
話せばいいのよ。でも、そういや、何時からこんな話し方になったんだっけ、こいつ。
そんなことを思いながら、窓の外を見ると、見覚えのある姿が歩いていた。

「おじいちゃん……」
「え?」

あたしは急いで伝票を掴むと、席を立った。

「早く! 行くわよ」

喫茶店を出て、おじいちゃんが歩いて行った方向を見る。

「急にどうしたんですか、まだ食べ終わってなかったんですよ」
「黙れ」

そう言って、おじいちゃんの小さくなっていく背中を見つめた。
おじいちゃんが一人でこんなとこまで外出するなんて。


今日は、母親の実家に集まる日。毎年、決まった日に、あたしの家族と古泉くんの家族が
母親の実家に集まって宴会を開く。
あたしの母方のおじいちゃんとおばあちゃん、そして、古泉くんの父方のおじいちゃんは、
昔からの知り合いで、今でもとても仲がよく、昔からちょくちょく三人で集まっている。

あたしは、その母方のおじいちゃんが大好きで、子供の頃から、いつも母の実家で
おじいちゃんに遊んで貰っていた。
そこに、よく顔を出していたのが、古泉くんのおじいちゃんで、古泉くんもおじいちゃんに
連れられて、よく一緒に来ていた。
そのお陰で、あたしと古泉くんは幼稚園の頃からの腐れ縁。幼馴染ってやつ。

その集まる日――つまり今日――は、おばあちゃんにとっての特別な日らしく、
元々は、おじいちゃんとおばあちゃん、古泉くんとこのおじいちゃんの三人で集まって
宴会してたらしいんだけど、それぞれに子供が出来てからは、家族みんなも一緒に集まる
ようになった、と言うことらしい。

子供ができる前は、五人で集まってたって、いつだったかおじいちゃんが言ってたけど、
子供が生まれてからは、ずっと三人だったみたい。

それにしても、あの三人の雰囲気は、ただの友人じゃないと思わせるに十分なものだ。
高校時代から延々と何十年も繋がり続けている絆って、一体どんなものなのか想像もつかない。
ただの友情で、あの三人のような雰囲気になるとは思えないから。
戦友ってあんな感じなのかなと思わないこともないけど、本物の戦友を知らないので
何とも言えない。

みんなが集まると、食事をしながら、おばあちゃんを囲んで昔話に花を咲かせる。
そんな場に参加するのは正直面倒だと思うこともあるけど、あたしは、よほどの用事が
ない限り、ちゃんと参加するようにしている。
だって、おばあちゃんやおじいちゃんの話はとっても面白いんだもの。

だから、毎年、その集まりの日に、いつも遅れて参加するおじいちゃんを不思議に思っていた。
おじいちゃんとおばあちゃんは、傍から見ていて恥ずかしくなるくらいに仲が良く、
いつも二人一緒にいる。どこかに出かけるときも、二人一緒だ。
それなのに、その日、おばあちゃんの特別な日だけは、一人でどこかに出かけているようだった。
そして、おばあちゃんと古泉くんのおじいちゃんが昔話で盛り上がっているころに、
ひょっこり帰ってくる。
おばあちゃんも別に怒ったり残念がったりしないから、本当に何か用事があるんだと
思ってたけど、考えてみればおかしい。
なぜ、よりによってみんなが集まる日に出かけるんだろう。

その謎が解るかもしれない。
そう思ったあたしは、おじいちゃんを尾行することにした。

「ほら、ちゃっちゃと付いてきなさい」

古泉くんに声を掛けて、おじいちゃんの後を追う。これは謎を解くチャンスなんだから。


直線道路では、おじいちゃんの背中を見失わないように、十メートルくらい離れて歩く。
おじいちゃんが角を曲がったら、角まで走って行って、見つからないように様子を窺う。

「どこに行くんでしょう」
「解らないから、尾行しているんじゃないの」

おじいちゃんは、とことこと、一定のスピートで歩いていた。
周りを見回すことも交差点で迷うような素振りも見せない。まっすぐ前を向いて歩いている。

「あれは、行き先が決まっている人の歩き方ですね」
「そうね」

誰かと待ち合わせかも。そんなことを考えながら、あたしは、探偵にでもなったような
気分だった。こんな気分になるのも久しぶり。

しばらく歩いていると、見覚えのある道に入った。小学生の頃、よくおじいちゃんに連れられて
歩いた道だ。

「図書館ですかね」

古泉くんの囁くような声。そうだ、この少し先に市立図書館がある。
小学校低学年の頃、よく、おじいちゃんに連れられて通ったんだ。
そういえば、その頃、おじいちゃん言ってたっけ、図書館には不思議な扉があるんだって。

――図書館には誰にも見えない扉があるんだ

そんなことを考えてたら図書館の近くまで来ていた。図書館入り口から少し離れたところで
立ち止まり、おじいちゃんの姿を目で追う。

おじいちゃんは躊躇することなくそのまま図書館へ入って行った。

いくらなんでも図書館で人と待ち合わせるなんて面倒なことはしないわよね。
何か図書館に用事があっただけか、本でも借りに来ただけだったのか。
そう考えて、少しだけ気落ちする。ただの用事だったんだ。でも、一応、中を覗いてみよう。
偶然を装って声を掛けたら、驚くかもしれない。

「本を借りに来ただけだったようね。何かあると思ったのになあ」

そう古泉くんに話しながら、ロビーから閲覧室を眺めて、息を呑んだ。
思わず古泉くんの腕を引っ張って、閲覧室入り口の壁に身を隠す。
周りの人から変に思われるかも知れないけど、気にしている場合じゃない。

おじいちゃんが、制服の女の子と一緒にイスに並んで座っていた。

「……これはこれは」

古泉くんも驚いているようだ。いや、たまたまかもしれない。そう、たまたま相席に――

「でも、空いてますよ」

うるさいわね。
でも、そうだった。閲覧室は空いていた。空いているのに、二人で並んで座るなんて、
知り合いだとしか思えない。どういうことなんだろう。
まさか、たまたま一人でいた女の子にちょっかいを掛けているなんてことはないわよね。


制服の女の子は、電話帳のような分厚い本を広げていて、おじいちゃんは、どこか楽しそうに、
そして、懐かしそうにその娘を見ている。

「あの娘の制服、この辺じゃ見かけませんね」

そうだ、あの制服、見かけない制服だ。この辺の学校じゃないわね。
何処となく古めかしい感じの夏服。でも、どこかで見たことあるような。何処で見たんだっけ?
あたしと同じくらいの年頃にみえるから、高校生だと思うんだけど。
この辺の高校といえば、あたしたちが通っている北高も、光陽園も、あの制服とは違う。

ふと、その娘が顔を上げ、おじいちゃんを見た。

ショートカットの理知的な顔。表情の薄い、でも整った顔立ち。
おじいちゃんを見たとき、その顔が、少しだけ微笑んだように見えた。

「美人ですね。無表情なのが残念なくらい」

くやしいけど同意するわ。何でくやしいのか解んないけど。

おじいちゃんが、その娘に耳を近付け、何か聞いている。
そして、その娘に何か言って、その娘が頷いている。頷き方も何ていうか微妙な動きだ。

「人形みたいな娘ね。何を話しているのかしら」
「興味がありますね」

何を話しているのか気になるけど近付けない。閲覧室に入ると、それだけで気付かれそうだ。
別に、あたしが何かしているわけじゃないんだから、見つかってもいいはずなんだけど、
何となく、見つかったら困ったことになるような気がする。

「でも、何というか、絵になる光景ですねえ」

そうポツリと古泉くんが呟いた。

午後の日差しの中で静かに本を読んでいる少女と、その少女を慈しむように見ている
おじいちゃん。

あの二人はどんな関係なんだろう。ちょっと想像がつかない。

少しして、その娘が立ち上がった。何というか、無駄のない動きって言うか、
音も立てずに歩く、そんな感じで、読んでいた本を持って書架に向かった。
そして、手ぶらで戻ってきて、おじいちゃんの側に立った。

よっこらしょって言葉が聞こえそうな素振りで、おじいちゃんが席を立ち、二人で並んで
こちらに向かってくる。

「こっちにくるわ。隠れるわよ」

ロビーの隅にあった大きな鉢植えの木の陰に隠れて、おじいちゃんたちが出てくるのを待つ。
少しして、おじいちゃんと制服少女が二人並んで図書館を出て行った。気付かれた様子はない。
ほっと息を吐く。

でも、おじいちゃんの顔。あんな表情は見たことない。
懐かしそうで嬉しそうなんだけど、少しだけ哀しそうな、そんな顔。

「あの二人、手を繋いでましたよ」

まったく、どういうことなのかしら。

「追うわよ」


おじいちゃんと制服少女が歩いていく。傍目には、おじいちゃんと孫にしか見えない。

「あの二人、どんな関係なんでしょうね」
「解らない。けど、ただの関係ではなさそうね」
「まさか、隠し子とか」
「あんた、何言ってんのよ。そんなこと、あるわけがないじゃない」

そう、おじいちゃんは、おばあちゃん一筋なんだから。

「でも、何か只ならぬ関係に見えるんですが」
「たしかにね。でも、隠し子なんて……」

そんなことがあれば、あのやたら察しのいいおばあちゃんが気付かないはずがない。
そして、気が付いていれば、おじいちゃんが無事で済むとは、とても思えない。

うーん、そう唸って、古泉くんが何か思いついたように言った。

「あ、もしかして援助交際――」
「それ以上くだらないことを言ったら、その軽薄な顔、叩き潰すわよ」

しばらくすると、駅前の公園に着いた。おじいちゃんが公園近くの自動販売機で缶コーヒーを
買い、二人で公園に入っていく。

「わたしたちも行くわよ」

二人はすぐに見つかった。公園のベンチに二人で座っている。何か話しているようだ。

わたしたちはおじいちゃんに見つからないように、回り込むようにして、ベンチが見える
藪の中に身を潜めた。

「しかし、あの娘、本当に表情がないですね」
「そうね」

本当に人形のよう。おじいちゃんが何か話しかけると受け答えするみたいなんだけど、
表情がまったく変わらない。そして、おじいちゃんがそれを当然のように見ている。

おじいちゃんと制服少女は、缶コーヒーを飲みながら、少し言葉を交わすと、
無言のまま二人で空を見上げ、またしばらくして、一言二言、言葉を交わすって感じで、
どうも、自然に見えない。

知り合いなら、もう少し会話が弾むもんじゃない?
まさか、本当に、今、知り合ったばかりなんて言うんじゃないでしょうね。

いや、あの二人がここに来るまで、何の迷いもなく、会話もなく、まっすぐここに来た。
ということは、あの二人は最初からここに来る予定だったとしか思えない。

それに、あの娘のお爺ちゃんを見る目が気になる。まるで、恋人でも見ているような感じ。
おばあちゃんがおじいちゃんを見る目に似てる。

「そうですか? 僕には、ただ無表情にしか見えませんけど」

違うわ。あれは恋する乙女の目よ。
そうだとしても、おじいちゃんが相手にするとは思えないけど。


そうしているうちに、その娘が、俯いたまま、お爺ちゃんに寄り添うように身体を寄せた。
おじいちゃんは驚くこともなく、自然に、その娘の肩を抱いている。

な、なにしてんの、おじいちゃん!
ここに警官が通りかかったら、青少年保護条例違反で、捕まっちゃうでしょうが。

「こうしてみると、まるで恋人同士みたいですね」

ほらね、そう思うでしょ? って、恋人同士? おじいちゃんが女子高生と?
何言ってんのよ、あたしのおじいちゃんは、ロリコンじゃないわよ。
相手が好きになるのは勝手だけど、おじいちゃんが女子高生とか相手にするわけないでしょ。

「でも、何か良い雰囲気ですよ」

そんなはずないわ。大体、おじいちゃん何歳だと思ってんのよ。

「いや、男は死ぬまで大丈夫ですから」
「何がよ! やらしいわね!」

しまった。思わず大声を上げてしまった。

見ると、おじいちゃんがこちらに視線を向けている。
やば、見つかったかも。そう思いながら、古泉くんを引っ張って慌てて公園から出る。
驚いた、胸がどきどきする。

「あんたねえ、あんたが変なこと言うから……」
「あ、移動するみたいですよ」
「え?」

公園の中に視線をやると、おじいちゃんと制服少女が二人で歩き始めていた。

「まさか、あの二人、このままホテルに――」
「それ以上くだらないことを言うと、その口を永遠に塞ぐわよ」
「あ、公園を出るみたいです」

急いで、二人の後を追う。
公園を出た二人は、近くの結構前に改装された古いマンションを見上げた後、
そのまま、駅前まで行き、駅近くのホテルに入っていった。
少し前にできたばかりの高級ホテルだ。間違っても若い男女が好んで利用するようなホテル
ではない。ないんだけど、ホテルであることには、間違いはない。

「…………」

どういうこと?
おじいちゃんが図書館で女子高生と待ち合わせて、公園に来て、二人でホテルに入った?


あたしは、思わず、古泉くんの胸倉を掴んでいた。

「一体、どういうことなのよ!」
「ぐ、苦しい、お、落ち着いてください。僕は何も……」

あたしはそのまま古泉くんを引き摺るようにして、ホテルの前まで行った。
入り口からロビーを窺う。ロビーにはいないようだ。

「なんてことかしら」
「どうします?」
「決まってるじゃない。フロントに行って、部屋を取っているか訊くのよ!」
「ホテルのレストランに行ってるかもしれませんよ」
「だから、それを確認するんじゃない。しゃきっとして。キョロキョロしちゃだめだからね」

そう言うと、あたしは、あたふたしている古泉くんの腕を取ってそのホテルの玄関に入ると、
そのまま、フロントカウンターに向かった。こういうときは、堂々としてればいいのよっ。

ロビーを横切ってフロントに向かい、

「すみません。あの、こちらに――」

と、おじいちゃんの名前を出して、宿泊していないか訊いた。

「ご宿泊でございます。お呼び致しますか?」

あたしは呆然としていたのかも知れない。古泉くんに腕を引っ張られて、はじめて訝しげな
視線に晒されていることに気が付いた。ま、まずいっ。

「す、すみません。何でもないんです。ありがとうございました」

そう一礼して、慌てて出口に向かう。頭の中が混乱していた。

――おじいちゃんが女子高生とホテルにご宿泊ですって?

そのままホテル近くの喫茶店に入り、空いてる席に座る。息が上がって喋れない。
古泉くんがアイスコーヒーを二人分注文した。その間に息を整える。

「どどど、どういうことよ?」
「まあ、水でも飲んで落ち着いてください」

目の前のお冷を一気飲みする。

「これが落ち着いていられるかってーの。お呼びしますかって言われたのよ?
ってことは、今、部屋にいるってことじゃないのよ」

おじいちゃんと女子高生が、ホテルの部屋で、一体何してるってゆーのよ?


「いやあ、でもすごいですね。老いてなお盛んとは――」
「それ以上何か言ったら、その口にタバスコ放り込むわよ」

それに、おじいちゃんがそんなことをするとはとても思えない。お母さんからは、
若いときから浮気一つせず、おばあちゃん一筋だって聞いてるんだから。

「でもですね」
「でも、何よ?」
「男なら一度くらい……、その……、いえ、何でもありません」

まさか、本当に援助交際とかしてんじゃないでしょうね。
いや、おじいちゃんにそんな甲斐性があるわけない。甲斐性の問題じゃないけど。
それに、おばあちゃんに見つからずにことを運ぶなんて不可能だわ。

でも、援助? そうか。

「あれじゃない? たとえば、あの娘は、おじいちゃんの昔の知り合いの子供か孫で、
何か事情があって、おじいちゃんがあの娘の後見人になってるとか」
「そうですかねえ。そうなら、なぜ一人でこっそり会ったりするんでしょう。
それに、もしそうなら、同じ年頃の僕たちにも紹介してくれるんじゃないですか、普通」
「……でも、きっと何か隠さないといけない事情があるんだわ」
「たとえば?」
「たとえば……、何か良く解んないけど、きっと何か事情があるのよ。そうに決まってるわ!」

当たり前よ。事情があるに決まってる。
援助交際なんて、いくらなんでも、あのおじいちゃんがそんなことするはずがない。
それに歳を考えなさいよ、歳を。自分の娘どころか、孫よ孫。考えられないわ。
ロリコンにも程があるってもんよ。

「…………」

ダメだ、考えていても埒が明かない。うっかりすると、おじいちゃんとあの娘がベッドで
絡み合ってるとこを想像しちゃうじゃないのっ!

あたしは、アイスコーヒーを一気飲みして、席を立った。

「今日のことは、内緒よ、内緒。絶対内緒。
あんたもあんたのおじいちゃんに、うっかり喋ったりするんじゃないわよ?」


家に帰ったら、お母さんに文句を言われた。

「遅いじゃない。何してたの? 今日は、おばあちゃんの家に行く日なんだから。
おばあちゃんが時間に厳しいのは、あんたも知ってるでしょ。早く準備しなさい」

適当に返事して、自分の部屋に向かう。

「また不思議探しとかしてたんでしょ、古泉くんと。本当に変なとこばっかり、
おばあちゃんに似たんだから。普通にデートすればいいのに」

ふん、いいじゃない別に。それに今日はそれ所じゃなかったんだから。


約束の時間を少しだけ過ぎて、おばあちゃんの家に着いた。
おばあちゃんはリビングにいたけど、やっぱり、おじいちゃんはいなかった。
どうしても気になるので、昔のアルバムを開いていたおばあちゃんに訊いてみる。

「おばあちゃん、おじいちゃんは?」
「何か大事な用事があるからって出かけたわ。夜には帰ってくるでしょ」

大事な用事か。そうね、おじいちゃん、制服姿の女子高生と会っていたんだもの。
ホテルの部屋まで取って。そのこと、おばあちゃんは知っているのかしら。
ううん、知ってたらきっと大騒ぎになってるはずだわ。

そう思いながら、おばあちゃんの横に座る。やっぱり、おばあちゃんには黙ってたほうが
いいわね。後で、おじいちゃんにこっそり訊いてみよう。

そう考えて、何気なく開いていたアルバムに視線を移して、その直後、驚きで息が止まり
そうになった。

おじいちゃんと会っていた制服少女! 同じ制服。同じ髪型。同じ顔。

その写真には、高校生時代のおばあちゃんやおじいちゃんと一緒に、あの制服少女が写っていた。
そうだ、あの制服。どこかで見た覚えがあると思ってたら、おばあちゃんが通っていた頃の
北高の制服だったんだ。


息を止め、写真を凝視しているあたしに気が付いたのか、おばあちゃんが、アルバムのページを
捲りながら、順番に写真の説明をしてくれた。でも、あたしは何も聞いていなかった。
ショートカットの無表情な娘の姿ばかりを目で追ってしまう。
この娘、おじいちゃんとどんな関係だったのだろう。それが気になって仕方がなかった。

あたしの視線に気が付いたのか、おばあちゃんが、その娘を指差しながら説明してくれた。

「この娘はね、あたしのお友達で、おじいちゃんの親友なの。きっと古泉くん以上の」

そう言って、おばあちゃんは、少しだけ目を伏せた。

「古泉くんのおじいちゃん以上の親友って……。で、今はどうしているの?」
「さあねぇ、どうしているのかしら。おじいちゃんは知っているかもしれないけどね、
あたしはもう随分会ってないから」
「…………」

あたしは、今日見たことを訊いたほうが良いんじゃないかと思い始めていた。

お爺ちゃんに寄り添ってた制服少女は、この写真の人に間違いない。
でも、この写真は何十年も前の写真。あの娘は、この写真の人の孫なのかしら。
いや、それにしては、この写真の人と似すぎている。まるで生き写しだ。
いくら血が繋がっていると言ってもここまで似るとは思えない。それにあの制服。
まるで、この写真の時代から何一つ変わってないような……。
まさか幽霊? そんな馬鹿な。でも、そうとしか思えない。やだ、鳥肌が立ってきた。

あたしがぐるぐるループ気味にあの娘のことを考えていると、おばあちゃんが、

「でも、きっと元気でやってるわ。今頃はデートでもしてるんじゃないかしら」

そう言って、写真を撫でながら慈しむような表情で、

「今日は年に一度の七夕の日……、あの娘の記念日でもあるんだもの」

穏やかに微笑むおばあちゃんを見て、唖然としてしまった。

おばあちゃんは、おじいちゃんとあの娘のことを、今日、おじいちゃんとあの娘が
会っていることを知っているのかもしれない。そして、それを許しているようだ。

あれは、おじいちゃんとあの娘の、年に一度だけ許された逢瀬なんだろうか。
そうかも知れない。でもそうだとして、じゃあ、あの娘は一体何者なんだろう。

そう考えたとき、唐突に、本当に突然に、いつかおじいちゃんが言ってたことを思い出した。

『この図書館には誰にも見えない扉があるんだ。そして、年に一度だけ、その扉を通って、
一人の宇宙人がやってくるのさ。昔のままの姿で、別れた古い友達に会うためにな』


―おわり―











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