作品名
『涼宮ハルヒの影響』
作者
21-625氏




「あなたには、感謝すべきなんでしょうね」
古泉の声が俺の耳に入ってくる。その声がいつもより湿っぽさを含んでいるのは
さて、梅雨入りもそう遠くないからだろうかね。
「僕のアルバイトも、しばらく終わりそうにありません」
お前に感謝される謂れなどない。俺は俺のやりたいことをやっただけだ。
その話はもう蒸し返さないでくれ。特に古泉、お前の口からはな。
顔を合わせずあさっての方向を見ながら、俺はだんまりを決め込んだ。
そんな俺をどう思ったか、
「とにかく、あなたと涼宮さんにまた会えて光栄です」
投げかけられてた声が、急に上から降ってきた。
視線を送ると、いつの間にか古泉は立ち上がっていた。
「また放課後に」
古泉は、顔だけこちらを向いて会釈を送ると、去っていく。
その背中に、俺はこっそりと、絶対古泉には聞こえない声量でつぶやいた。
「……また後でな」


「どう?」
ギターを弾き終えた女子生徒が、隣に腰掛け頭を揺らせていた女子に向き直った。
演奏終了とともに頭を揺らすのを止めた女子の髪が、ふんわりと落ち着く。
肩の線で髪を揃えている女子は、問いに目を輝かせて、首を上下に振った。
「うん、すっごくいいと思う。わたし歌いたくなっちゃった」
甘い声を弾ませて、感想を述べる。興奮しているのか、顔が上気していた。
しかし、ふとその顔が少し不思議そうな表情に変わる。
「でも貴子先輩、どうしたの? いつもと曲調が違うよね」
貴子先輩と呼ばれた女子は、抱えるギターに視線を落とし、
「この曲さ、あたしが昨日、夢の中で弾いてた曲なんだ」
「夢の中?」
首を傾げる女子に、貴子先輩はうなずきを返して続ける。
「そ。普通はね、夢で弾いてても覚えてないんだけど、この曲は違ったの」
手でコードを抑え、
「朝、起きてからギターに触ってみたら、体がひとりでに動いて」
再現するかのように、軽くギターを流し始める。
「気付いたら一曲全部弾いてた」
言葉とは裏腹に、途中で弦を押さえて演奏を止めた。
そのまま貴子先輩は、真剣なまなざしで、横の女子を見つめる。
「ねえ榎本さん、いいえ、美夕紀ちゃん。バンド組んでみない?」


放課後。榎本さんは軽音楽部の部室の扉をくぐっていた。
音量を下げてはいるが、それでも様々な音が耳に飛び込んでくる。
中にはすでに何人かの部員がいて、それぞれの楽器を思い思いに弾いたり叩いたりしていた。
「おはよ、瑞樹、まいまい」
榎本さんは、そのうちの二人に近寄って、声をかけながらかばんを下ろした。
手近に置いてあったギターケースに手を掛け、中からギターを取り出して腰掛ける。
「おっはー」
パッドで音を抑えたドラムを叩いていた活発に見える女子、瑞樹が応えると、
「みゆみゆ、おはよ」
ベースを抱えて楽譜とにらめっこしていた女子の舞も顔をあげて返事をした。

「一曲やっとく?」
榎本さんが腕ならしに軽くギターを弾いたあと。
スティックをくるくると回しながら、瑞樹が軽く提案してきた。
舞はノリ気のようで、いそいそとアンプの電源に手を伸ばす。
「あ、その前に少し話したいことがあるの」
「ん? なに? ミユきち」
瑞樹の問いかけに、
「あのね、貴子先輩がバンド組まないかって」
榎本さんは、先程言われたことを、二人に聞かせた。
「中西先輩が?」
電源に手を掛けたまま意外そうな声を出す舞に、
「へー、貴子がねえ。どういう風の吹き回しなんだろ」
面白そうにスティックをお手玉する瑞樹。
そんな二人に、榎本さんはおっとりと自分の意見を述べた。
「わたしはやりたいな、って思ってるんだけど、二人はどう?」
「んー、あたしは貴子の話を聞いてから決める。まいまいは?」
いたずらっぽい笑みを浮かべながら、瑞樹は舞に話を振った。
「えっと、みゆみゆがやりたいのなら」
あまり自己主張しないタイプなのか、舞はおずおずと申し出る。
「ありがと。それじゃ先輩が来るまでやろっか?」
返事を聞いた榎本さんは、咳払いをひとつふたつして、立ち上がった。
舞を待って瑞樹がスティックを打ち鳴らし、演奏が始まった。


瑞樹のドラムと舞のベースに合わせて、榎本さんがギターを弾きながら歌声を披露する。
鼻から抜け切らない声が、二人で歌っているような余韻を残す。
おちゃらけた印象の瑞樹は、目を笑わせながらも正確にリズムを刻んでいき
舞のベースは、真面目そうな雰囲気そのままに、曲を支えていた。
そんな三人の演奏に、いつの間にか、ほかの軽音楽部員は音を出すのをやめて聴き入っていた。

「ふう」
既存の曲だったが一曲を終え、榎本さんが一息をつく。
「みゆみゆ、今日は調子いいみたいね」
舞がショートカットの前髪を指ではじいてから、ほんのり微笑んで感想を言う。
瑞樹もスティックを置いて、親指を立てる。
聴衆と化していた部員は、口笛を吹いたり、楽器の音で感想を伝えてきた。
「さんきゅ」
榎本さんが感謝の言葉を述べたとほぼ同時に、部室の扉が開いた。
そこに立っていたのは、ギターケースを担いだ貴子先輩だった。

部内の雰囲気が少しよそよそしくなる。
それを気にした様子もなく、貴子先輩は、演奏を終えたばかりの三人に足を向けた。
外にはねた髪を揺らして近づき、ギターケースを床に下ろす。
榎本さんに向けた顔には、笑顔が浮かんでいた。
「あたし外で聴いてた。美夕紀ちゃん、やっぱりいい声ね」
「貴子先輩……」
普段、部内では見せない笑顔を見せてくれた貴子先輩に、榎本さんはうれしくなる。
「ふうん、貴子、ずいぶん変わったね」
それに横槍を入れたのは、瑞樹だった。目を細めて、
「話はミユきちから聞いたよ。バンド組みたいんだって?」
「そうよ、瑞樹」
笑顔を消して、売り言葉に買い言葉とばかりに、視線を送り返す。
瑞樹も視線を受け止めて、不敵に唇の端をゆがめる。
「理由を聞かせてもらえる?」
瑞樹の詰問に、ふいっと視線をそらせて、
「美夕紀ちゃん、そのギター使ってもいい? あたしのはアコギだから」
「あ、はい」
榎本さんからギターを受け取ると、ストラップを調節して、肩から提げる。
アンプを調整して、エフェクターも確認してから、軽く音を鳴らす。
ピックを手にとってひとつ深呼吸をすると、指をギターの上に滑らせた。


しなやかな指がギターの上を這う。
まるで音が指の動きより先に出てきていると錯覚するほど、高速のピッキングが繰り広げられる。
イントロらしき部分が終わると、リズムギターに切り替えて、貴子先輩は歌いだした。
ハスキーな声が響き渡る。その歌声は榎本さんと比べるととても上手とは言えなかったが
情熱だけは、負けないものがあった。にじんで、飛び散る汗とともに、歌い続ける。

一番が終わって、間奏に入ったときだった。
突然ベースの音が曲に加わった。貴子先輩が視線を送ると、舞がギターに合わせて
コード弾きをしていた。目線をベースに落として、曲についていく。
次いでハイハットを刻む音がした。瑞樹がにまにま笑う。そのまま二番に突入した。
初めて曲を聴いたとは思えないほど、舞と瑞樹は曲に合わせ楽器を演奏し
ベースとドラムが加わわることで、曲に厚みが出た。
榎本さんもいつの間にかコーラスで参加していて、四人は息の合ったプレイを見せる。
一体感が部室を覆った。

ギターの音が止まるとともに、誰からともなく拍手を始めた。
全員に広まって、しばらく四人に対する賛辞が贈られる。
当事者の四人は、お互い上気した顔を見合って、曲をやり遂げた達成感に浸った。

落ち着いてから、貴子先輩は瑞樹に向かって口を開きかけた。
「あたしは――」
「ストップ」
スティックで貴子先輩の口元を指し、沈黙させる。瑞樹は立ち上がって歩み寄り
スティックを束ねて左手に持ち、右手を差し伸べた。
「貴子、よろしく!」
「瑞樹……」
瑞樹の手を握り返したその上から、榎本さんと舞の手が置かれる。
「貴子先輩、がんばろ!」
「中西先輩、よろしくお願いします」
二人の言葉に、中西先輩は空いた手で目尻を拭いながら、うなずいた。
「二人とも、わたしのことは貴子でいいよ。同じメンバーでしょ?」


六月末――

「あなたが長門有希ちゃん? みくるからよーく聞いてるよっ」
髪の長い、朝比奈さんのクラスメイトの鶴屋さんが横の長門になにやら話しかけている。
長門は我関せずといった面持ちで、サンドイッチを頬張っているけどな。
ちなみにここはファミレスである。ハルヒの思い付きにより参加した
野球大会も無事一回戦で棄権、今は昼飯を古泉を除くみんなで取っているところだ。
そこの妹、もうちょっとゆっくり噛んで食べなさい。ハンバーグが喉に詰まるぞ。
朝比奈さん。微笑んでないで、少しは妹に注意してやってください。
ジャージ姿の北高の天使にアイコンタクトを試みていると、
「みんな、じゃんじゃん食べてよね。ここはキョンのおごりだから!」
おいハルヒ、勝手に決めんな。俺は承諾した覚えはないぞ。
谷口や国木田を含め、八人分の昼飯なんざ普通なら払ってられん。
そう、普通ならな。
俺は懐を確かめ、抗議を口に出さずまあいいや、と思った。
懐にはなぜか、それなりの臨時収入が舞い込んでいたからである。
上ヶ原パイレーツの健闘を祈ろう。


「わ、なんかお隣さんにぎやか」
舞が後ろから聞こえてくる声に反応して、ちらちらと後ろを向く。
「どれどれ?」
それにつられて、瑞樹が横から身を乗り出す。
「あ、クラスメイトのみくるちゃんじゃん。ってことは、例のSOS団とやらかな」
体を横倒しにしたまま手を振ると、みくるちゃんも気付いたのか、手をにぎにぎしてきた。
「もう、それよりわたしたちの話をしないと」
スプーンを置いた美夕紀が釘を刺した。
グラスに入ったコーラを飲み干して、貴子が口を開く。
「バンド名は、みんなの頭文字を取ってENOZでいい?」
「榎本のE、中西のN、岡島のO、財前のZでENOZね。でもどうせならZO――」
「それは却下」
座り直して発言しかけた瑞樹に、向かいの貴子が冷たく告げる。
「わたしもそれはちょっと」
「冗談だって、じょーだん」
舞の追随に、瑞樹は軽く舞にデコピンを食らわした。
「いいよね、この名前で」
美夕紀がまとめるように言うと、全員うなずいた。


「当面の目標は、やっぱ文化祭?」
コーヒーに砂糖を継ぎ足しながら、瑞樹が質問する。
「あたしはそのつもり」
「全曲オリジナル?」
答える貴子に、バナナパフェを口に運びながら美夕紀が言えば、
「そういえば、あの曲の名前聞いてなかったかも」
舞もプリンに添えてあったさくらんぼを手にとって、つぶやく。
「その二つは、話し合いで決めましょうよ」
「話し合いで決めるなんて、貴子丸くなったね」
「……瑞樹、殴るよ」
間髪入れずツッコミを入れた瑞樹に、貴子は握りこぶしを固める。
『あははっ。長門っちいい食べっぷりだっ!』
「おや、鶴にゃん」
向こう側の声に気を取られたふりをして、瑞樹はそらっとぼけた。

「あの曲がオリジナルだから、全部オリジナルがいいな」
間を継いだ美夕紀の希望に、
「あたし作詞も作曲もできないよ。ドラムのアドバイスならできるけど」
「わたしもベースだけ」
瑞樹と舞が、声を揃える。
「美夕紀はできる?」
気を取り直した貴子の言葉に、美夕紀はスプーンを口に含んだままうなずいた。
「じゃ、あたしと美夕紀で作ろっか。ベースとドラムは任せるよ?」
「うん」
「任された」
請け負う二人を見て、話題を次に移す。
「それじゃあとは、あの曲の名前ね」
「貴ちゃん、候補ないの?」
スプーンを振って美夕紀が訊いてくる。
「God blessかGod knows。サビの部分の歌詞」
「神が祝福を与えたもうと神のみぞ知る、か。貴子意外と詩人じゃん」
コーヒーカップを傾けて、笑いながらからかう瑞樹。貴子は淡々と切り返す。
「あたしが思いついた歌詞じゃないの。曲を弾いてたら自然と浮かんできて」
「そんなことあるんだ」
舞が感心したような声を出し、プリンを一口すくった。飲み込むと、
「わたしは、God knowsのほうがいいかな。祝福はちょっと大げさだと思う」
「まいまいの言うとおりかも」
美夕紀が舞を支持し、瑞樹もそれで決まりとばかりにコーヒーカップを置いた。
「ほかに意見ないの?」
貴子が訊くと、三人とも首を振った。瑞樹が代表して気持ちを代弁する。
「だってこの曲、貴子がいちばん知ってるんでしょ?」
『こらキョン! あたしに黙って勝手に追加注文するんじゃないの!』


七夕の翌日の放課後である。
「笹っ葉、片づけといて。もう用無しだから」
そう俺に告げると、ハルヒはさっさと帰ってしまった。
どうも調子が狂うな。しおらしい姿のハルヒを見てるとよ。
ま、あいつのことだから、しばらくすればまた元に戻るだろう。
俺にできることは、笹の葉を片付けることぐらいなもんである。
真実をあいつに告げるわけには、どうもいかないらしいからな。
それに片付けも、後回しだ。朝比奈さんもいないし、訊きたいことがある。
俺はチェスの駒を手の中で遊ばせながら、顔を盤面から横向けた。
視界に淡々と読書をしているショートカットの頭をみとめ、口を開いた。
「なあ、長門――」


「あれ、みくるちゃん。どうかしたの?」
かばんを提げて部室に向かう途中、瑞樹はみくるちゃんに遭遇した。
窓から運動場をぼんやり見て、悩ましげに溜息をついている。
「ふえっ? あっ、岡島さん」
呼びかけられ、慌てて振り向いたみくるちゃんに、
「気になる先輩でもいるのかな?」
瑞樹はにやにや笑いながら手で望遠鏡を作って運動場を見る。
かと思えば、わざとらしく手を打って、
「あっ、違ったか。みくるちゃんが気になるのは、一年のキョンく――」
「わわわっ、違います違います」
両手を顔の前で振って否定するみくるちゃん。
「顔赤くして言っても、説得力ないなあ」
瑞樹の言葉に両手を頬に当てる。その仕草が肯定していることに気付き、
「……誰からキョンくんの名前を聞いたんですか?」
「ん、鶴にゃん」
あっけらかんと暴露する瑞樹。
「鶴屋さん、言わないでって言ってたのに……」
顔をうつむかせて、体をふるふる震わせる。
「まあまあ、鶴にゃんも悪気があったわけじゃないから。じゃねー」
みくるちゃんの肩をぽんと叩いて、瑞樹はすたすたと歩き去った。


「まいまい、おはよーさん」
「あ、みっきー」
瑞樹が部室に入ると、舞がベースの手入れをしていた。
「ミユきちと貴子はまだかい?」
きょろきょろと部内を見渡す。その仕草に舞は笑いつつ、
「まだみたい」
「ふうん。ま、いいや。軽く腕慣らしといきますか」
かばんをそのへんに放り投げて、瑞樹はスティックを手に取った。

しばらくして、美夕紀と貴子が二人揃ってやってきた。
「ごめんごめん、遅れちゃって」
美夕紀が手を合わせて舌を出す。
「遅い! あたしが来てからもう三十分経ってるよ」
バスドラをどかどか叩いて瑞樹が抗議をする一方で、
「なにかやってたの?」
下級生に手ほどきをしていた舞が戻ってきた。
「新曲の調整」
と貴子が舞に答え、MP3プレイヤーを差し出した。
「聴いてみて。ベースとドラムは参考程度にリズム取りで入れてるだけだから」
受け取った舞は、こくりと首肯してから試聴しだす。
一回目は目をつぶって、一音たりとも聞き漏らすまいと集中していた。
やがて曲が終わったのか目を開けると、今度はベースを手にとって、二回目は曲に軽く合わせる。
満足したのか、曲が終わると、
「はい」
瑞樹にプレイヤーを手渡した。瑞樹も同様に二回、曲を通して聴く。

「うん」
うなずいてヘッドホンを外し、スティックを置いた瑞樹は、貴子にプレイヤーを返す。
感想を知りたそうな美夕紀と貴子をよそに、舞とアイコンタクトを取った。
笑いかける舞に、瑞樹は近寄って舞の肩を抱き寄せる。
息もぴったりに瑞樹は堂々と、舞ははにかんで、二人にサインを送った。
上向きに立てた親指を。


胸をなでおろした美夕紀に、舞が質問してきた。
「この曲、みゆみゆが作詞した?」
「うん、でもどうして?」
「だって……」
美夕紀の返事に舞はちらっと貴子を見やる。
「なに?」
貴子の不思議そうな顔を、いつもの人が見逃すはずがなかった。
「そりゃ貴子がこんな甘いあまーい恋の歌を書くわけないし」
「わっ、みっきーそこまで言わなくても」
瑞樹の口をふさごうとする舞。
その二人の様子を見て、貴子は額を押さえてうめく。
「あんたたちね……」

「もう。わたしは貴ちゃんの作曲のイメージに沿って作詞したのに」
呆れ気味の美夕紀に、瑞樹のいつもより滑らかな口がすべった。
「自分の経験も投影させたんじゃないの?」
「え」
意表を突かれた風の美夕紀に対して、舞も何か思い当たることがあったか、人差し指を立てた。
「そういえばみゆみゆ、好きだった先輩が転校しちゃったんだよね」
何の気なしにぽつりと漏らす。
「みゆみゆ、先輩と映画行ったり抱きしめあったり、そこまで進んでたんだ」
「ま、まいまい!」
顔にぱっと朱色が散った美夕紀の肩に、瑞樹が手を乗せた。
「詳しい話を聞かせてもらいましょうか」
「え、え?」
美夕紀は慌てふためいて、救いを求めるかのように貴子に視線を送った。
貴子はそんな美夕紀に苦笑を見せ、
「そうね。曲に感情移入するためにも、知っておくべきね」
「た、貴ちゃん……」
最後の綱がふっつりと切られた。喜色満面の瑞樹が顔を近づける。
「ミユきち、覚悟っ!」
「ひええええっ」


俺の日常はというと、SOS団の活動がほとんどを占めているわけであり
SOS団をイイワケにするのもなんだが、それでもあれだけ散々不可思議な体験をしたあとで
いざ勉強に取り組もうとすると、あまりやる気が湧かないのも無理はないと思う。
いや、これは嘘だ。どちらにせよ、俺が勉強に正面切って取り組んでいたとは思えん。
つまり何が言いたいのかというと、期末試験が終わった。あらゆる意味で。
明日からは試験休みだが、休み明けに返ってくる答案に記された二桁の数字のことを思うと
これは休みではなくて、自己内省のための時間なのではないかと思えてくるから不思議だ。
ああ、このささくれ立った気持ちは癒してもらうしかない。それも早急に、だ。
そう思い俺は今日も部室の扉をノックした、のではあるが、
「どうぞ!」
扉の向こうから返ってきた声は、俺の期待していた朝比奈さんではなかった。
「なんだ、ハルヒお前だけか」
「有希もいるわよ」
扉を開け、落胆を隠さなかった俺に、ハルヒはパソコンを操作しながら投げやりに答えた。
たしかに、長門も定位置で読書をしていた。ここは言い直しておくべきだろう。
「なんだ、ハルヒと長門だけか」
そう言いながら、俺は部室の扉をくぐった。朝比奈さんが来るのを心待ちにしつつ。


「体調悪いの? 喜緑さん」
三時間目のテストが終わって、沈んだ表情で席に座っている女子に、舞は声をかけた。
難関の数学を終えて、気持ちに余裕ができた途端、周囲に目が行き届き始めたのだ。
喜緑さんは、いつも大人しい、目立たない子だったが、舞とはそれなりに会話する仲だった。
喜緑さんは首をふるふる振って、目線を机に向ける。
「喜緑さんのことだから、テストが悪かったわけないし、悩み事?」
今度は首を振りもせず、かといってうなずきもせず、じっと机を見ていた。
なにやら複雑な事情があるらしい、と判断した舞は、深入りしないことにしたらしい。
「あの、わたしでよければいつでも相談してね」
微笑みとともにそう言って、次のテスト勉強でもしようと背を向けた。
すると、その背中に小さいけれどもはっきりした声が届いた。
「財前さん、ありがとう」
自分の席に向かう舞の足取りは、軽かった。










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