作品名
外伝
作者
6-101氏



  きっと今から歌うこのうたは
 あなたの耳に入ることもなければ
 あなたに伝わることもない。

 けれど終わることもない。



  【ラブ・ソング】



 彼は、起きていた。私が来ても驚いた様子はなく、この展開を予想していたかのようだ。
 寝ないで、私を待っていてくれた。そのことに私の胸が締め付けられる。
 彼の手が私の手を握る。不快ではない。むしろ暖かい。人間の温もり。生きている証拠。私はどうなんだろう。私は彼を暖めてあげられるのか。私は、生きて いるのか。
 この星の生き物は、生きている。産まれてきた。産まれてきたことを知ってほしくて泣いたのだから。
 誰かを愛して、誰かに愛されて、誰かを傷付け、傷付けられたりする。
 私も…そうでありたい。彼といられるうちは、彼を思っていられるうちだけは…私は、人間でありたい。
 そんな思いが今回の事件に繋がったのだ。彼がいる。それだけで幸せだったはずなのに。私は彼を望んでしまった。
 彼が私のために笑ってくれるならどんなに幸せだろう。私に向けられるのはいつも困ったような顔ばかりなのだから。
 私は、彼を望んでしまった。彼が欲しい。あなただけには笑っていてほしい。私を…見てほしい。
 その瞬間、世界が変わってしまった。
 でも、それは絶望じゃない。彼は、戦ってくれた。今を取り戻すために。私を、取り戻すために。

 だったら、私は彼を思い続けよう。私の自律行動が続く限り。私は、もう幽霊でないのだから。
 だから、言おう。恋を教えてくれたあなたに。人並、いや、人以上の幸せをくれた、あなたに歌おう。ラブ・ソングを。
 
 …いま、私の頬を伝ったのはなんだろう。



「ありがとう」



 病室を出る。月明かりがふんわりと落ちてきた。辺りが蒼く照らされ、彼に包まれているような気さえした。
 今日は気分がいいから歩いて帰ろう。いつもより、もうちょっと歩幅を広げて。


 そう、ほんの少しだけ。




 私は恋をしている。





 生きている。






(外伝 完)




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