作品名
みくる編
作者
2-?氏





ハルヒに走らされ、長門に連れられ、俺の喉はギリギリまで巻き込まれた太平洋プレートよりも限界に近づいていた。
これもハルヒの仕業か分からんが、古泉に問いただしたところで「涼宮さんが望んだ事ですよ」で片付けられてしまうに違いない。
とにかく水分だ。 今の俺にとっては核で動く空飛ぶタイムマシン付き車よりも貴重だ。
『第三走者…』
あぁ、もう聞いてる余裕は無い。 って水筒はどこだ、俺はここに置いといたはずだぞ。 谷口、隠すと後で後悔するぞ。
「そんな幼稚な事、誰がするか」
「そうかい、じゃあお前の飲んでるお茶を分けてくれ」
「悪りぃな、ちょうど飲み干したところだ」
蓋を開けて中身が無いことを見せ付ける谷口。 なんて間の悪さだ。 暗い路地の夜道の一人歩きには注意しろよ。
「あ、あのぅ…」
透き通るようなエンジェルボイスに振り向けば、朝比奈さんがいた。 というかあなたもですか?
「ふえぇ、ごめんなさい… すきな人って書かれてたから…」
すみません、もう一度言ってもらえますか? 俺の聞き間違いでなければ「好きな人と」
「いえ、すきな人って事は、誰でもいいのかなって…」
喜びと驚きの数値が底の割れた体温計のように降下していく。 そういう意味で捉えたのか… 
「と、とにかく急ぎましょう。 このままじゃ最下位ですよ」
俺は朝比奈さんの手をとり何とかコースまで来た。 持ってくれ、俺の体力。
「ま、待って下さいよぉ… きゃぁ!」
悲鳴にあわてて振り向くと朝比奈さんが豪快にヘッドスライディングしていた。 しかも何もない場所で。
「大丈夫ですか朝比奈さん」
「ふえぇ大丈夫ですぅ…」
ぜんぜん大丈夫そうに見えなかった。 ってか膝を擦りむいてるじゃないですか。
「え… きゃっ!」
擦り傷を見た朝比奈さんはそのまま気絶してしまった。 なにを思ったか俺はあわてて背中と膝に手を回し持ち上げた。 いわゆる『お姫様抱っこ』という奴 だ。
何で俺もこんなことをしてしまったかはよく憶えていない。 とりあえず喉の渇きと朝比奈さんの気絶で必死だったんだろう。
そのままゴールラインまで走りきったときには冷やかしの声と呪いの言葉が1対6の割合で飛んできたことだけは言っておこう。 あと案の定最下位だった。

朝比奈さんが目を覚ましたのはちょうど朝比奈さんをおろし、保険の先生が傷口を消毒し始めた時だった。
「キョン君、ごめんなさい… 迷惑かけちゃって」
いえいえ、朝比奈さんならたとえ反対の家で「引越し!引越し!」と騒がれても迷惑とは思いませんよ。
「あ、もう大丈夫ですから戻ってくださいね」
朝比奈さんの見てるだけで美容効果がありそうな笑顔をOKサインとして受け取った俺は、競歩世界新よりも速くテントに戻った。 もう本当に喉が限界だっ た。

「やあ、お待ちしておりました」
どけ、古泉。 まだ次の走者までは時間が有るはずだろ。
「それも込みでお話があるんです。 実は先ほど大規模な閉鎖空間が発生しました」
さっきまであれだけ元気だったのにもう不機嫌になったのか。
「本当に鈍いですね、原因はあなたですよ」
「俺が?」
「まぁ、無駄話もどうかと思うので単刀直入に言います。 僕の代わりに借り物競争に出てもらえますか? 緊急出動がかかってるんで僕は出れないんですよ」
つまりこれに出てハルヒの機嫌が直るような事をしろという事か…
「その通りです」
「分かった。 だがまずお茶を飲ませてくれ…」
「何を言ってるんです? もう次ですよ」
古泉が肩をすくめて鼻で笑った。 正直お前一人居なくてもどうにかなるんじゃないのか?
『第五走者の人は、白線内に集まってください』
無常にも俺の番を知らせるアナウンスが流れ、俺はバッテリー切れ寸前のASIMOのように中央に歩いていった。
これもハルヒが望んだ。 何て言わないでくれよな…











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