作品名
コインランドリー
作者
6-101氏



 はじめは、ただ見ているだけで。
 そばにいるだけで、良かったんだ。


 そう、ただ、同じ空間にいるだけでよかったんだ。
 



 一人暮らしをしている僕が週2で行くコインランドリー。
 そこでは夜に行くと、たまに会う女の子がいた。
 ボブカットをさらに短くしたような髪。名前は知らない。ただ、いつもセーラー服を着ていた。
 彼女は洗濯中ずっと本を読んでいる。僕は片手に少年ジャンプ。敗北。
 この歳で一人暮らしなんだろうか。整った顔立ち。雪のように白い頬。そして眼鏡。人形めいた雰囲気をしている。
 気付けば僕は彼女の事ばかり考えるようになっていた。毎晩コインランドリーへ向かう。毎日は来ないと分かっているのに。
 彼女が読んでいた本を買いに行った。本なんか滅多に読まないのだけれど。
 次の日、その本を持ってコインランドリーへ行った。やはり彼女はいなかった。
 こんなん読んでも彼女が来なければ意味がない…そう落胆していた時。
 彼女が音もなく入ってきた。感情のないような表情を見た瞬間、何故だが無償に泣きたくなった。
 その日、彼女は別の本を読んでいた。
 僕はさっさと洗濯を終え、本もろくに読まないまま帰ろうとした。
「まって」
 一瞬、何が起きたのか分からなかった。
 振り返ると、いつの間に移動したのか、彼女が立っていた。
「これ」
 そう言って手にした何かを差し出す。聞いた三秒後には忘れてしまいそうな、平坦で耳に残らない声。
 彼女が差し出したのはさっきまで彼女が読んでいた本だった。
「どうぞ」
 そう言われても…貸すって言うのか?
「返さなくていい」
 そう言うと、彼女は洗濯物をまとめて出ていった。
 それから、二度と彼女はコインランドリーへ来る事はなかった。
 彼女がくれた本は表紙に「人間失格」と書かれていた。





 あれから三年、僕にも妻ができて娘もできた。今は週2で森林公園へ行っている。
 ある日公園へ行った時、あの時と変わらぬ風貌で、魔女のような衣装を着た彼女がいた。


(終わり)






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