作品名
もう一人の入団者
作者
14-711氏




 古泉、わかったぞ。お前は言い訳を俺に押し付けるために俺を呼んだのだな?
それとも、本当に何かあったのか。どちらにしろ、後で何かしらお返しが必要だな。
しかし古泉もさっさと帰ってしまい、部室の中は朝比奈さんと長門だけだ。

今朝比奈さんは着替え中。俺はドアの前で突っ立っている。
俺は、自分でも驚くくらいのスピードで思考を回転させていた。

 俺はまだ納得がいっていない。結局古泉は俺に分かるように説明しなかった。
というか、俺と会話を成立させようともしていない。非常にむしゃくしゃする。
 正直、徹が異世界人であろうと俺に害は何も無いはずだ。
だとしたら知らなくてもいいが、最小限は知っておきたいよな。あいつについて。
あいつが何者かを知っていそうなのは、古泉を抜かせば長門と朝比奈さんだ。
 そうすると、どちらに聞いても長いややこしい話になるのは確実だ。
しかしどちらかというと朝比奈さんのほうが話短めでいいかなと思うし、
俺自身、できれば朝比奈さんと二人きりになってみたい。
それがたとえ小難しい話であったとしても、朝比奈さんと一緒ならパラダイスだ。
「よし」
 決まりだ。朝比奈さんに聞こう。
まあ禁則事項に触れない程度にな。


 そう考え終わると同時に、朝比奈さんが出てきた。よし、今だ俺。
「あの、朝比奈さん」
「え、あ、キョン君?」
 いきなり俺に話しかけられ、戸惑う朝比奈さん。これもかわいい。
さすがマイエンジェル。
「ちょっと話があるんですけど、いいですか?」
「は、はい、何?」
「徹のことです」
 俺があいつの名前を言った途端、また朝比奈さんは固まってしまった。
「・・・どうしたんです、朝比奈さん。昨日から変ですよ」
「ご、ごめんなさい・・・」
 いえいえ、謝る必要なんてないのです。
「いったいやつは何者なんですか?いったい、どういう・・・・」
 俺はそこで少し話すのをやめた。朝比奈さんがあまりにも動揺していたからだ。
もしや彼女にとって不都合なところがあるのだろうか。
それに、聞いてもまた『禁則事項』なのかもしれない。
「言い出しといてなんですが、無理して話さなくても大丈夫ですよ。
 話しづらいなら・・・・」
 何より辛そうな朝比奈さんを見たくない。どうも変だ。
しかし朝比奈さんは少し間を空けて言った。
「大丈夫、キョン君。これは私にとっても、あなたにとっても大切なこと。
 言うのが怖いけど、言わなくてはならないの」
「大切なこと?」
 俺は聞き返した。先ほどまでの朝比奈さんと違い、真剣な表情だ。
あの時と同じ表情だ。始めて朝比奈さんが正体を明かしたときと。
「そう。よく分からないだろうけど、聞いてね」
 やはりか。ただ事じゃないのだろう。
俺もいつになく緊張して来た。あーやべ、心臓バクバク来てる。
「あのね、キョン君。この世界なんだけど・・・」
「・・・・・・はい」
「彼が来たことで、未来が変わってしまったの。
 本来この世界で起こるはずだったことがどんどん変わってきているんです」
「未来が・・・変わる?」
 その言葉は、どうにも俺はしっくり来なかった。


 ちょっと待ってください朝比奈さん。
いきなりですが俺の脳のメモリーが限界に近いですよ。俺の頭も情けない。
でも、未来って言うのは決まっているものなのですか?
「確かに、未来は変わるという考えもあるわ。でも、じゃあなぜ私はここにいると思う?」
「それは・・・・」
「もしかしたらこの世界は、恐ろしい方向に変わっていってしまうかもしれない。
 私もいつの間にかこの世界からいなくなってしまうかもしれないの・・・」
 それはいやだ。悲しすぎる。
「ありがとう、キョン君。でももし私が消えたら、それはもともとこの世界に私という存在が無かったことになる。
 そうしたら・・・キョン君も私のことなんて知らなかったことになるの」
 それを話す朝比奈さんは、またさっきの辛そうな表情へと戻っていた。
自分が消えるかもしれない。そんな恐怖と戦っているのだろう。
俺は想像できない。想像したくもない。
「そしてそれのトリガーとなったのが、徹君。
 彼が来るかもしれないというのは予測していたことでした。
 でも、可能性なんてそれこそほんの少し。誰も来るなんて思っていませんでした。
 だから名前を聞いたとき驚いたの。そのあとだったわ。
 未来が変わっているのに気がついたのは。
 そして同時に未来とコンタクトもできなくなったんです」
「やっぱり、未来が変わるのはまずいんですよね?」
「もしかしたら、大丈夫かもしれません。でも本部と連絡が取れない以上、
 分かりません・・・・たぶん大丈夫だと思うけど・・・・」

 やはりよく分からない。なぜ徹はいけないのだろうか。
「それはね、彼は涼宮さんよりすごい力を持っているから。彼も自覚しています」
 俺はそのとき、ハルヒと閉じ込められた灰色世界を思い出した。
「徹も同じ力を持っているのですか?朝比奈さん」
「同じじゃないけど、たぶんそうです。閉鎖空間の作り方とかわかっちゃったら、後はいとも簡単に作っちゃうと思います。でも、作り方なんてあるのかし ら・・・?」
 朝比奈さんは考え込んでいる。そこは今考えるべきなのですか?
「とても信じられませんよ」
 そう答えるしかなかった。ハルヒにそんな力があるなんてのも信じがたいことなのに、あいつまであるとは思えない。
「でも、彼の力はそんなものじゃないはずです。本当の力を出してしまえば、この世界は吹き飛ぶ。
 涼宮さんの意思とは関係なく。もしかしたら・・・宇宙そのものが消えるかも・・・」
「な・・・・?」


 言葉を失った。失うしかないね。
何もかもが飛び抜けすぎている。俺の期待していた1999年の恐怖の大魔王が数年遅れてやってきたのか?それとも、新たな神の降臨か?どちらにしろおかし い。
「あ、でも彼、そんなことはしないです。それは大丈夫です。ね、キョン君?」
 まあ、そうかもしれませんが、分かりませんよ。
「それに今の彼、どこかおかしいです。そう思いませんか?」
 さあ、分かりません。顔色を見るのは得意ですが、いつも同じような顔なんで。
「・・・こんなところです。ありがとうキョン君、ちゃんと聞いてくれて」
 話し終わった朝比奈さんはどこかすっきりとした顔をしていた。
どうも少し思いつめていたところがあったらしい。
さっきの『存在が消える』というところだろう。
俺なんかでも朝比奈さんの気を落ち着かせることができたのだろうか。
だとしたら、嬉しい。いつも俺の目と心を癒してくれる彼女を俺が話しを聞いて癒した、
というのは大げさか?でもそういう気分だ。

 朝比奈さんはその後足早に帰っていった。俺も帰ろう。
徹には何かある。それは分かった。
「・・・・ん?」
ちょっと待て。分かったのそれだけか俺よ。いや、まだあるはずだ。
あいつがいると世界の歴史が変わる、でも害は無いと思う。
ミラクルパワーを持っていて閉鎖空間なんていともたやすく創れる。
それどころか、この宇宙が壊れるらしい。
「・・・おいおいおい・・・」
 いまさらながらやばいことに気がつく俺。
つまりあれだ。あいつはいつでも世界を滅ぼせるんだな?
俺は今までそんな大層なやつに話しかけていたのか?
まあ大丈夫だろう。朝比奈さんの言葉を信じるしかない。
 しかし今回は禁則事項とやらに引っかからなかったのだろうか。
毎回それで聞けなかったことが多かったので、逆に気になる。
うーむ・・・・・
「・・・やめよう」
 考え込んでも仕方ない。なんとかなるさ。
長門に聞いたほうが良かったかな?まあ、またいつか聞いてみよう。





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