作品名
 長門有希の狼狽
作者
8−710氏





「…………」
 長門は黙っている。俺も。しかし、この沈黙を破るのは俺の仕事だ。
「長門」
 呼びかけて、初めて気がついた。その瞳が、ほんのわずか揺れている。そのことを訊いてみるべきか、いやさっさと謝ってしまうか
ほんの少し考えている間に、長門が先に口を開いた。
「あなたは、」
 言ってから、言葉に詰まったように静止する。俺には長く感じられたが、実際は一秒かそこらだろう。
「この一週間ほど、」
 またつまる。長門らしからぬ切れの悪さに、俺は身を硬くした。
「私を、避けている」
 言ってから、とうとう視線をはずし、床を見つめた。俺が半ばあっけに取られていると、
「私に、何か落ち度があった?」
 言葉の意味が頭に染み渡るまで、十秒はかかったね。理解すると同時、肩の荷が情報結合を解除されたかのごとく
消えていくのを感じる。
 楽になったら、今度は長門に対する申し訳なさで胸がいっぱいになった。こいつは……俺がうじうじしていた所為で、
こんなにも苦しんでいたんだ。ごめんな、長門。
 歩み寄り、中腰になってうつむきがちの視線を正面から捉える。今の安堵と長門への気持ちを精一杯表したつもりの笑顔を作って、
こう言った。
「ちがうんだ、長門。俺は、」
 おっと。どう説明したもんかな。まさか、「お前を見るだけでも発情して襲い掛かりそうだから、謝りそびれた」
なんて、言えるわけもないし。
「一週間前の、ほら、長門に……しちまった事で、嫌われたんじゃないかって、それが怖くて、謝りそびれてたんだ。
 もっと早くに俺から言い出すべきだった。本当に、すまん」
 どうやら概ね伝わったらしく、長門の瞳から怯えの色は消えた。それから首をかしげて、
「謝る?」
 どうやら俺が長門を見くびっていたらしい。あの程度は長門にとっては問題でもなんでもないんだ。
……なんかちょっと寂しい気がしないでもない。俺の脳裏にはもう一生消えないってくらいに深く刻まれたってのに。
「だから、アレだよ。長門も一週間前の解散のときに、俺に言ってから帰っただろ?」
 『寒い』
 『暖めて』
 ってやつな。あれは凄い破壊力だったぞ。俺に止めを刺すには十分な一撃だった。
「あれは、冗談」
 お前ってやつは……文字通りシャレにならなかったぜ。
「ごめんなさい」
 あ、いや、いいんだ。
「それより、あの冗談を言えるって事は……俺とシャミセン二号が何をしていたか、」
「知っている」
 うああ、死にたい。
「気にしていない。大丈夫」
 気にしていない、か。そうだよな。ま、そんなもんだよな。
 と、そんな気持ちを態度に示してしまったのが良くなかったのか、長門はフォローを入れてくれた。
「嫌ではなかったから」
 心臓がはねる。
「あなたとなら」
 まっすぐに見つめてくるブラックオニキスのような瞳から目が離せない。長門が熱のこもった視線を……あの長門がだぞ……
俺に向けているからか、全身が熱くなってきやがった。
「長門……」
 意味もなく、名を呼んでみる。背にした夕日が無表情を塗りつぶし、それがかえって表情をつけている。
突如指先からひやりとした長門の頬の感触が伝わってきて、ぎくりと体がこわばった。
 何をやってるんだ、俺は?
 どうやら無意識に頬を撫でようとしたらしい。長門は特に反応もなく……いや、そっと目をつぶった。
 ちょっと待て、何だこの状況は? 何でそこで目をつぶるんだ?
「涼宮ハルヒに」


 今度は心臓が止まりそうになった。
「あなたと話をつけるために時間と場所を作ってもらった」
「そ、そうなのか。後で俺からも礼を言わないといかんな」
 絶好のチャンスとばかりうかつな手を引っ込めようとして、長門にそっと抑えられる。
 勘弁してくれ。俺はあの日からお前のことを思い出さない夜はなかったんだぞ。それが赦されたと同時にこんなことされたら、
本当にどうにかなってしまう。
「どうだった?」
 なにがだよ?
「私の体」
 どうしてそんなにきわどい発言を繰り返すんだ。もしかして本当はぜんぜん赦してくれてないんじゃないか?
 と思ったって、口に出せるはずもない。
「私の体は男性から見た性的魅力がこの地域の平均よりも低い。端的に言えば、貧相な体」
「んなわけないだろ! 俺はあの日からずっとお前のことが頭から離れなかったんだ!
 毎晩毎晩、お前の、」
 言っちまった。やっちまった。目まいがするほど赤面することって、あるんだな。
「私の?」
 つぶっていた目を開けて、俺の目を覗き込む。
「いや、なんでもない」
「言って」
 いや、でも、
「言って」


 結局、俺は死ぬほど恥ずかしい思いをしながら、毎晩長門をおかずにオナニーしていたことを白状させられた。
最初から素直に謝っておけばこんな事にはならなかったのに……悔やまれてならない。
 長門は一度うなずくと、要点をまとめた。
「あなたは私に対して抑えがたい性的衝動を覚えている」
 死にたい。誰か銃を持ってきてくれ。
 だが、その次に長門がはいた台詞で全てがひっくり返った。
「解消するのが最善策」
 はい?
「あなたが性的な欲望を満たせば、目下のストレスから開放される」
 意味分かって言ってんのか?
「分かっている」
 本に出てきた、という長門らしいような、子供っぽいような理由だった。確かに、小説にはミステリだろうがなんだろうが
不意に濡れ場が出てきたりするからな。長門だってそういう描写を何度となく見てきたろう。
 しかし、だからって……
「先日の体験は、私にとって未知数だった。私もしてみたい」
 その瞬間、俺の中で謎の葛藤が起こった。
 まず、満面の笑みを浮かべたハルヒやあっかんベーをするハルヒがフラッシュバックして、
次にこの一週間たびたび思い出してきた長門の肢体が脳裏に浮かぶ。
 ハルヒの笑顔はとても大きく、まぶしくて、しかし長門の肢体の圧倒的質感に負け、俺の頭の隅に追いやられた。

 もう、限界だった。

 後先の事は考えず、長門の脇に手を入れて立たせ、長机に押し倒す。背中に夕日が当たっていて、
長門からは俺の顔が見づらいだろう。
「本当に、やっちまっていいのか?」
「いい」
 長門はあくまで無表情だ。俺の妄想と同じく。
 生唾を飲み込んで、せめて少しでも気分を出そうとして、キスからはじめようと思った。
 じりじりと長門の顔が近づいていく。だんだん心臓の音が無視できないほど大きくなってきた。そういえば、
ファーストキスじゃないか?長門にとっても。
 そんな事を考えるとますます緊張して、細く息を吐く。すでに長門にかかる距離だ。長門はどう思ったろうか。
 間近で見る長門の顔は、やっぱり綺麗だった。自分の顔が見えるくらいに近い瞳が、わずかに揺れている。
怯えでもなく、安堵でもなく、緊張だと思った。長門も俺のことを、意識してくれているんだろうか。
 その瞳にまぶたが下りて、俺の決心も固まった。
 そして、くちびるが、
 触れた。


 その時のことを俺は生涯忘れまい。何せ、長門がぴくんと震えたんだ。そのままくちびるを啄ばむようにじゃれていた が、
そのうち俺のほうから舌を入れてみた。
 今度は俺が震えた。長門の口の中の感触が、舌から伝わってくる。かわいらしい舌、かわいらしい歯、かわいらしい頬の内側……
要するに全部かわいい。俺が長門の背中に手を入れて抱きしめると、長門も抱きかえしてくれる。
 息子は痛いくらいに硬くなっていたが、しばらくそれは忘れてお互いにむさぼりあった。
 口を離したとき、糸が引いているのを熱に浮かされた頭で見やって、次は制服を脱がしにかかった。
長門の頬が紅潮しているように見えるのは、夕日のせいか、どうか。
 服越しに体のやわらかさを感じるたび、口の中がからからに乾いて目まいがした。震える手で何とか脱がそうとすると、
長門がばんざいして脱がせやすくしてくれた。俺は長門の肌着姿に目を奪われ、それを脱がすことにすら快感を覚え、
ブラ一枚になったときにはこのまま昇天しても全く悔いは無いと思い始めていた。
 興奮と緊張で震える手で、腹の辺りからそっと肌を撫でる。心臓辺りに頭を乗せて、至福のときを味わった。
背中に回した手で、ホックに指をかけると、ひとりでに外れた。思いやりを察して苦笑する。するするとブラは取り除かれる。
 興奮よりも先に感動が来た。やっぱり妄想とは比べ物にならない。そろそろ藍色の混ざり始めた夕闇に染められて、
幻想的な光景になっていた。
 気の聞いた修辞なんて思いつかない。とにかく、綺麗だ。そう思うと同時、むらむらと、この体にむしゃぶりつきたいという
欲望がわいてきた。長門もああいったことだし遠慮しないでいいだろう。
 がばっ、とのしかかると、向かって左の乳首をちゅぱちゅぱ音を立てて吸い、右のほうの乳房をまさぐった。
長門が吐息を漏らし、目を閉じる。俺は調子に乗って左手で太ももの内側をさすってやった。
「あっ」
 震えと、声。ここが弱いのか? もっと執拗に、丁寧に、まだショーツには触れないように愛撫する。
 長門はほんの少し目を細めて、それ以外は身じろぎ一つしない。だが、その息は確かに荒く、さっき聴いた限りでは
鼓動も速くなっている。
 俺は名残惜しくも長門の胸から顔を離し、ついに絶対領域の内側、即ちまだ脱がしていないスカートを、国宝を取り扱うような
うやうやしさをもってつまんで上げた。
 まぶしい。黄昏の中でなおまぶしいその光景を、もっと近くで見ようと顔を近づける。太ももを下から持ち上げて、
足を開かせる。ほんの少しの抵抗があったような気がするが、さて。どうなんだ、長門?
 長門は頭を少し持ち上げて、こちらを見ている。初めて自主的に動いたな。なんかうれしいぞ。
 うれしいついでに、さっき弱点だと思った太ももの内側に舌を這わせてやろう。長門の股に顔をうずめるような格好になって、
初めて長門のにおいを感じた。始めて嗅いだ体臭がこれってのも強烈な体験だな。匂いのせいもあってかさらに興奮が増してきたぜ。
 太もものつけ根、一番あそこに近いところから、舌先で線を引いていく。
「ん……」
 やっぱりここが弱いのか。今度はキスしてみる。ぴくん、と太ももが震えた。たまらん。
 この反応に味をしめた俺は、両の太ももに丹念に愛撫してみることにした。どうやら、長門は右太ももがお好きのようだ。
さっきより強く長門の匂いを嗅ぎとることができる。それもまた、俺の煩悩を刺激した。
 さっきから気になっていたショーツのシミに、大胆にも鼻っ面を埋めた。長門の腰が浮く。ショーツごと
その下にある肉を甘噛みしてやると、
「あっ」
 長門の喘ぎ声だ。こんなレアな声が聴けるのは宇宙ひろしといえど俺だけだ。案外と長門は人間に近い反応を返してくれる。
鼻に当たっている豆だって、もう充血してるしな。俺ほどではないにせよ。


 そろそろいいだろう。俺は立ち上がって、長門の顔を見た。初めて表情を見たのがこれってのはどうなのかね。俺は嬉し いが。
記念とばかり、キスをしてやる。ショーツに手をかけると、長門が腰を浮かせてくれて、すっと脱げた。糸を引いている。
 このまま入れちまいたいところだが……やはり好奇心には勝てず、俺は長門の大事なところを拝むことにした。
綺麗な桜色をしたそれは別の生き物のようにてらてらと輝き、俺を誘っているように見える。
 よく女性器はグロいだの何だの言うが、長門のものならオールオッケーだ。上のほうでぷっくりと自己主張している
クリトリスに口付け、くちびると舌で皮をむいてやる。
「ひぅ」
 耳から入って直接脳みそをとろかしそうな声。もっと聴きたくて、そのままクリトリスを吸ってやる。
「ん、くぅ、あっ」
 突然体をのけぞらせ硬直した後、息も荒く脱力する。しまった。長門がはじめてイくところを見逃した。
 しょうがない。ここからは長門の顔から目を放さないようにしよう。
 つまり、
「いくぞ、長門」
 俺は返事も待たず、長門の腰を抱えて自分のナニを入り口にあて、力を込めて突き入れた。
「ぁあうっ!」
 長門が語調を荒くするなんて初めてだ。長門の処女喪失時の表情を脳裏に刻む。
感無量で、長門の膣中を味わう。これもまた、想像、以上だ!
 熱い。狭い。やわらかい。気持ちいい。俺は取り付かれたように腰を突き出し、長門もそれに応えてくれた。
しかし所詮は童貞か、長門の人間離れした名器の前では、一分と持たなかった。でる……!
「膣内に射精してかまわない」
 正直そんなのこれっぽっちも聞いちゃ居なかった。長門の中にぶちまけたい。それしか考えず、
長門の一番奥に、叩きつけるように性の奔流を放った。



 入れたまま射精の余韻を味わいながら、改めて長門の表情を観察する。
さすがに長門はまだイっていないらしく、もの欲しそうな顔をして、足を俺の腰に絡めてきた。
「まだする?」
 おいおい。そうじゃないだろ?
「……………………もっと、して欲しい」
 恥ずかしそうに、眉を少し寄せて答えた。長門よ、気づいているか? お前今表情を出してるぞ……
なんていうととたんに無表情に戻りそうな気がするので黙っておいた。
「長門の中、ものすごくよかったよ。あのまま天国に昇天するかと思った」
 そう言って頭を撫でてやる。サラサラした髪の毛がきもちいい。
「それにしてもお前、案外とこういう時に敏感なんだな」
 長門は俺の胸に額を当てて、表情を見せまいとした。恥ずかしがってるのか?ますますかわいいぞ。
長門の背中に手を回して、つながったまま抱き起こす。駅弁みたいな格好だ。再び長門の顔が正面に来て、やっぱり顔が赤かった。
 調子に乗って、こんなことを口走った。
「俺は長門が感じてくれて嬉しかったよ。何か不足している事があったら言ってくれ。
 もっと長門を悦ばせてみたい」
 長門はいつもの無表情モードで数瞬考えて、
「あなたのピストン運動は性交に最適とはいえない」
 と言って、分あたり何回が適正かを教えてくれる。何だその知識。
 まあ、そりゃあ初めてだし、その……
「性交の基本として、女性を満足させずに男性だけの満足で終わるのは好ましくないとされる」
 プレッシャーだな。長門を満足させるだって? 出来るのか、そんな事?
 ネガティブになったら息子も腰が引けたようだった。しゅるしゅると小さくなっていく。
ちょ、ちょっと待ってくれ! こんなときに!?
「大丈夫」
 長門は俺をとん、と押して離れさせた。数歩離れて見ると、長門の股間からは俺がさっき大量に吐き出した
白い液体が断続的に流れ出している。まだ脱がせていないスカートと上履きと靴下がアクセントになって、脳死するほどエロい。
俺の視線に気づいたか、長門はすっかり無表情に戻った顔で
「あなたの精液はすでに相当な数が子宮に侵入している」
 今度は俺が赤くなる番だった。長門はそれを滴らせるままにして机から降り、俺の前にひざまずいた。
咥える。


 それと同時、俺のものを口の中全部使って刺激し始めた。これは本当に長門の口の中なのか。
俺の精液を搾り取るためだけに存在しているように思える。
「な、がと……おまえ、こんなのをどこで……」
 強制的に全回復させられたものを含んでいた口を離し、今度はさおと玉を片手づつで刺激し始めた。あ、これもやばい……
「情報統合思念体に申請して性交のデータをダウンロードした」
 そんな情報を溜め込んでるんじゃないぞ情報統合思念体。そうか。初めてにしては慣れ過ぎてると思ったよ。いやそれより、
「そのデータ、破棄するか封印するか出来るか?」
 ぴた、と長門が停止する。きょとんとした目で
「なぜ?」
 そりゃな。お前がさっき「満足させろ」といったのは解るけどさ。そのためによそからデータを持ってきても、
それはそれで盛り上がらんものなんだよ。
 俺は気持ちよくなりたいって以前に、長門とヤりたいんだからさ。
 長門が赤くなる。恥ずかしいのは俺も一緒だ。
 こくん、と普段より振れ幅多目にうなずいて、
「了解した。当該データを全て破棄」
 言ったまま、動かない。どうした?
「どうすればいいのか、わからない」
 あー……じゃ、先っぽをなめてみてくれ。
「わかった」
 そういって、おずおずと舌を伸ばして鈴口を撫で始めた。う、これはこれでやばい。
「次はそのさおを握ったままの手を、そのままの力でしごいて、玉はやさしく揉んでみてくれ」
 さっきよりぎこちない感じでしごかれる。不安そうに上目遣いをしてくるのがたまらなく征服欲をあおった。
よく出来たごほうびとばかり頭を撫でる。長門はほんの少し目を細めた。その表情だけでノックアウトされそうだ。
「よし……次は咥えるんだ。痛いから歯は立てないでくれよ」
 指示通り、まず亀頭を口に含んだ。
「そのまま……強く吸ったり、舌でこすったりしてくれ」
 くっ、ちょっとやばくなってきたぞ。両手と口で攻められて、腰に力が入らなくなってきた。
 俺の見てきたエロ本知識も案外間違ってはいないな。
「さおから手を離して、奥までくわえ込むんだ。舌でこすりあげたり口全体で吸い付いたり」
 言おうかどうかまよって、
「喉の奥の方でしごいてくれ」
 大丈夫か、こんな事言って。
「ん、ぐ……」
 大丈夫じゃあ無かった。長門は律儀にも実行してくれて、苦しそうにしながらも先端を喉で刺激してくれる。
根元の方に苦しそうな吐息が当たって、こそばゆかった。眉根を寄せた長門のフェラ顔にくらくらしながら、
「そのま、ま頭を前後に動かしてみてくれ」
 じゅっ、ぽ、じゅっ、ぽ、と実にいやらしい音が部室に響き渡る。頭を動かしながらも、長門の視線は
俺の顔に固定されているようだ。目が合いっぱなしだからな。どんな顔してるんだ、俺は。
 そろそろ二度目の噴火が起こりそうだったので、頼んでやめてもらう。長門を立ち上がらせて、
いまさらながら服を脱ぎ始めた。長門が手伝ってくれて、何がなんだかわからないうちに素っ裸にされる。
靴と靴下まで脱げているのはどうやったんだ?


 俺は椅子に……長門がいつも使っている椅子に座って、手招きした。とことこ歩み寄ってくる。
目の前に立った長門を抱き寄せて抱え上げ、垂直にいきり立ったものの真上になったところで、掴んだ腰を下げる。
  俺と長門は抱っこのような姿勢でつながった。さっきより締りが良くなってないか?いきなり射精しそうになったが、
そこは我慢のしどころだ。今度こそ満足させてやるからな。
 さっきよりも長門の全身が感じられる。射精感を押さえるためにしばらくじっとして、長門のくちびるを奪った。
 ようやく動けるようになって椅子をぎしぎし揺らしていると、
「社会、通念上」途切れ途切れなのは俺が突き上げているからだ。
 うん?
「性交、した男女は、愛称もしくは、名前で呼び合うのが、普通」
 ハルヒのひねくれが移ったか? お前がそんな遠まわしな表現をするとは……
 嬉しいぜ。
「有希」
 口にするだけで、もっと距離が近くなったような気がした。
「……ョン」
 何だって?聞こえなかったぞ。
「キョン」
 くっ、射精しそうになったぞ。つながったまま顔どアップでその台詞言われちゃあな。
ケツが千切れそうなほど括約筋に力を入れて、必死に耐えた。
 長門の方もそれがスイッチになったのか、興が乗ってきたようだった。まぶたが下りてきている。
俺の首に両手を回して、額と額をこつん、とあわせた。もう長門の顔しか見えなくなって、
耳には荒い息遣いと卑猥な水音しか入ってこない。
 抱きしめ返して、舌を絡めあう。急に快感が激しくなったのは、もしかしなくても
長門が腰を遣いだしたからだ。長門が腰を振っているという事実に気が遠くなりかけるが、まだ果てるわけにはいかない。
 俺も長門も、舌を絡めているせいで半ば酸欠状態だ。長門に酸欠なんかあるのかは知らんが。息が荒いのだからそうなのだろう。
いつの間にか背中に回されていた腕に力がこもるのを感じて、終末を意識する。
 口を離した。
「有希」
「キョン」
 意味を持たせず連呼する。お互いに高めあうための呪文だ。
 俺は長門の尻に手を回して、思い切り腰を打ち付ける。「キョン」という呼びかけがそのたびに一瞬止まる。
熱くなった菊門を両の指が撫でた瞬間、
「あっ!」
 その全身がこわばる。背中に爪を立てる感触。
 痛いほどに締め付けを増した中、またも一番深いところに射精した。


 もう夕日が完全に落ちている。部室の中も宵闇に包まれて、長門以外はほとんど見えない。
俺たちはつながったまま、どちらからともなくキスをした。
「ごめんなさい」
 え?
「背中に爪を立ててしまった。すぐに治癒する」
 いや、このままにしておいてくれ。記念だ。
「わかった」
 またキス。


 その後、そそくさと着替えて(俺はかなり気まずかった)、帰路についた。
 長門はすっかり無表情に戻っていて、俺の三歩後ろをついてくる。さっきのことは
俺の頭の悪い妄想ではないかと思い始めていたが、全身の汗と背中の痛みが否定していた。
「なぁ、」
 どう呼ぶか迷って、
「長門」
「有希」
 やっぱ夢じゃないな。
「えー、有希。今日の事は、その、ハルヒには内緒にしてくれ」
「……なぜ」
 なぜ、て。不機嫌そうな顔をしないでくれよ。
「さすがに俺と長門が……セッ、……やったなんて、誰かに知らせる事じゃないと思うんだ」
 すけこまし野郎みたいな台詞に自分が嫌になったが、常識的判断だと言い聞かせた。
「あと、有希とキョンで呼び合っても、ハルヒなら感づくと思うから、それも……」
 最低野郎だな俺は。
「…………わかった」
 じいい、と俺を見つめる目は、何か複雑な感情をたたえていて、それを解析する前に
長門は俺の前を歩き始めて、そのまま家までそのポジションだった。






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